叢生(そうせい)のある凸凹な前歯の虫歯治療
歯が前後に凸凹しており、綺麗なアーチを描いていない状態を叢生(そうせい)と呼びます。
叢生のある(歯並びが悪く歯が重なり合っている)前歯は、磨きにくく汚れが残りやすいため綺麗な歯並びの方と比べると虫歯のリスクがとても高いのです。
また、歯が重なっている部分の治療が難しいことは歯科関係者であれば誰もが知っています。
叢生のある前歯のダイレクトボンディング
以前は、理想的な前歯の形態が作れずに悩んでいましたが、マイクロスコープとラバーダム防湿、歯間離開器を用いたダイレクトボンディングにより、叢生の前歯でも本来の歯の形態を付与することができるようになりました。
もちろん、矯正治療を行なってアプローチしやすい状態で充填するのが理想ですが、全ての患者様に矯正治療を受け入れて頂けるわけではありません。
歯間離開器を使用するとわずかですが一時的に隙間を作り出すことができ、その隙間から本来の形態を模倣して充填することができます。歯の重なり方にもよるので全ての方に適応する治療ではありませんが、叢生のある前歯治療の選択肢として考えてみてください。
ダイレクトボンディングの費用やリスク
費用
複雑窩洞(片方の隣接面を含むもの)1歯:¥50,000 (税込¥66,000)
複雑窩洞(両方の隣接面を含むもの、または切縁を含むもの)1歯:¥70,000 (税込¥77,000)
※隣接面とは歯と歯の間のことです
治療回数
1回
神経に近い、および神経に到達してる虫歯の治療は2回
(※歯髄温存療法を行なう必要がある場合は、虫歯治療のみ行ったあと、2~6ヶ月症状の経過をみてからダイレクトボンディングを行ないます。歯髄温存療法の費用は別途かかります)
リスク
- オールセラミックと比較すると若干の劣化がある
- 噛み合わせが強い方は、欠ける可能性がある
- 基本的に1回で治療は終わるが、時間が1時間程かかり30分は開けたままのため、顎が疲れる
叢生のある前歯の虫歯治療が難しい理由
1. 視界の確保が難しい
叢生によって歯が重なり合ったり、ねじれたりしているため、治療部位を直接見れないため、虫歯の取り残しや充填が上手くいっていないことに気付けないことがあります。
2. 歯科器具の操作が難しい
歯が密集していると、虫歯治療の歯科器具(歯を削るバーや探針など)をうまく操作できないことがあります。器具がうまく届かないため、虫歯を完全に取り除くことが困難になります。
3. 虫歯の広がりやすさ
叢生のある歯は、隣接面が清掃しにくく、プラークが溜まりやすいため、虫歯が隣接する歯にも広がりやすく、同時に治療が必要になるケースが多いです。この場合、窩洞が複数になるため虫歯治療が複雑になります。
4. 歯肉の状態
叢生があると、プラークコントロールが上手くいかないために歯肉が腫れやすく、炎症や腫れを引き起こしやすいです。歯肉の炎症がある場合、治療中の出血が増え、視界がさらに悪くなります。
5. 審美性の問題
前歯は特に審美性が重要視される部分であるため、隣接する歯との調和を保つことが求められます。叢生の状態では、歯の形や位置が不規則なため、自然な色調や歯の形態を再現することが難しくなります。
6. 歯根の位置異常
叢生によって歯が異常な位置にある場合、歯根の形や位置も正常ではないことが多いです。
7. 矯正治療との併用
叢生がある場合、虫歯治療と同時に矯正治療を行うことが推奨されることがあります。しかし、矯正治療中はブラケットやワイヤーが装着されており、さらに治療が難しくなります。
8. 患者の協力の必要性
叢生の治療には、患者様自身の協力が不可欠です。特に、治療後の口腔ケアが重要で、歯並びが不規則なため、ブラッシングやフロッシングの方法を適切に行う必要があります。プラークコントロールが不良だと2次虫歯(再度虫歯になってしまうこと)のリスクが高まります。
9. 再治療の可能性
叢生の歯に対する治療は プラークコントロールの不良が原因で、新たな虫歯が発生する可能性があります。そのため、できるだけ段差のない充填を行い、メインテナンスで長期的に経過を見ていく必要があります。
10. 治療時間の延長
叢生が原因で虫歯治療が複雑になると、治療に時間がかかります。うまく充填できなかった場合には、後日に充填や研磨をすることがあります。
以上のように、叢生のある前歯の虫歯治療は、視界の確保、歯科器具の操作、虫歯の広がりやすさ、歯肉の状態、審美性の問題、歯の構造の複雑さ、矯正治療との併用、患者様の協力の必要性、再治療の可能性、治療の長期化など、多くの要因が重なり合って困難を伴います。患者様と歯科医師の協力のもと、最適な治療計画を立てることが重要です。