歯がグラグラする前に――エルビウムヤグレーザーによる負担の少ない歯周病治療


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「歯ぐきが下がってきた」「最近、口臭が気になる」「歯が浮いているような感じがする」
――それ、歯周病が進行しているサインかもしれません。
この記事では、歯周病による歯肉退縮や口臭の悩みに対して、音や痛みの刺激を抑えた「Er: YAG(エルビウムヤグ)レーザー治療」という選択肢を詳しくご紹介します。
【この記事でわかること】
- 歯周病が進行すると歯ぐきがどう変化するか
- エルビウムヤグレーザーの特徴と治療の流れ
- 治療にかかる費用・期間・メリット・リスク
- 不安を解消するためのQ&A など
歯周病で歯ぐきが下がると、なぜ危険なのか?
歯周病の進行と「歯肉退縮」
歯周病は、歯の周りにある歯肉(歯ぐき)や歯槽骨(歯を支える骨)に炎症を引き起こし、進行すると歯を支える組織が徐々に失われていく病気です。
特に中高年以降に多く見られる「慢性歯周炎」では、歯ぐきが下がる(=歯肉退縮)という変化が起こります。これは、炎症によって歯肉が痩せたり、骨が吸収されたりすることで、歯が以前より長く見える状態になるのが特徴です。
放置すると起こる可能性のある問題
歯肉退縮が進行すると、以下のようなトラブルが現れやすくなります。
- 歯のぐらつき: 支えとなる骨が減るため、噛む力に耐えきれず、歯が動揺するようになります。
- 口臭の悪化: 歯ぐきの隙間に汚れがたまりやすくなり、細菌の繁殖によってにおいの原因物質が発生します。
- 知覚過敏: 歯の根元が露出することで、冷たいものや熱いものにしみやすくなります。
- 根面虫歯:エナメル質の臨界PHが5.6と言われていますが、根面(象牙質、セメント質)の臨界PHはかなり低い(酸で溶けやすい)ため、根面は歯磨きをしていても虫歯になってしまいます。
- 審美的な悩み: 歯ぐきが下がることで「老けて見える」と感じる方も少なくありません。
これらの症状はゆっくりと進行するため、気づいたときにはかなり状態が悪化しているケースも多く見られます。
エルビウムヤグレーザーとは?――その仕組みと歯周病への応用
歯科治療で使われるレーザーとは?
「レーザー治療」と聞くと、何となく特別な印象を受けるかもしれませんが、医科・歯科を問わず広く応用されている技術です。
歯科用レーザーは、光を強力に集めてエネルギーとして利用する医療機器で、虫歯や歯周病の治療、口内炎の処置など、幅広い場面で使われています。
レーザーは「切る」「削る」「殺菌する」「止血する」といった作用を持ち、従来の器具(メスやドリル)と比べて以下のようなメリットがあります。
歯科用レーザーの主な効果
- 殺菌効果
細菌を減らし、感染のリスクを抑える。
(歯周病治療や根管治療に活用) - 止血効果
出血を抑えながら切開できる。
(歯肉整形や抜歯後の処置に有効) - 疼痛緩和
神経を落ち着かせたり、炎症を抑えたりする。
(知覚過敏や口内炎に使用) - 組織の蒸散・切開
歯肉や粘膜をきれいに切ったり蒸散させる。
(従来のメスよりも傷がきれいに治りやすい) - 硬組織への応用(Er-YAGレーザー(エルビウムヤグレーザー)のみ)
虫歯を削る・歯石を除去することも可能。
歯科治療で使用されているレーザーは現在4種類あります。
- 半導体レーザー
- Nd:YAGレーザー(ネオジウムヤグレーザー)
- Er-YAGレーザー(エルビウムヤグレーザー)
- 炭酸ガスレーザー(CO₂レーザー)
どのレーザーも歯茎などの軟組織に使用されるレーザーですが、Er-YAGレーザー(エルビウムヤグレーザー)は硬組織(歯や骨)へも使用できるという特徴があります。
各レーザーの特徴
半導体レーザー

主な用途
・歯肉切開、歯肉整形
・口内炎治療
・根管治療の補助(殺菌)
・歯周病治療の補助
特徴
・小型で取り扱いやすくコストも比較的低い
・止血・殺菌効果に優れる
・主に軟組織への使用が中心
ネオジウムヤグレーザー(Nd:YAGレーザー)
主な用途
・歯周ポケット内の殺菌、歯周病治療
・根管治療(殺菌・消毒)
・メラニン色素沈着の除去(歯肉の黒ずみ改善)
・口内炎治療
特徴
・歯や骨には吸収されにくく、血液に吸収されやすい
・深部まで到達しやすい
・組織透過性が高い
エルビウムヤグレーザー(Er:YAGレーザー)
主な用途
・虫歯の除去、歯質の切削
・歯石の除去、歯周病治療
・歯肉の蒸散や形成
特徴
・水に最も吸収されやすい波長
・熱の侵襲が少ない(組織に優しい)
・歯の硬組織(エナメル質・象牙質)にも使用可能
炭酸ガスレーザー(CO₂レーザー)
- 特徴
・波長が水分に吸収されやすい
・止血効果や切開能力に優れる
・熱作用が強い - 主な用途
・歯肉や口腔粘膜の切開
・口内炎の治療
・歯周ポケット内の殺菌
・抜歯後の止血
当院では、半導体レーザーとEr-YAGレーザーを使用しています。
レーザー治療の基礎知識とエルビウムヤグレーザーの特徴

「エルビウムヤグレーザー(Er:YAGレーザー)」は、歯科で使用されるレーザーの中でも特に水分への吸収率が高く、熱の発生が少ないという特長があります。
熱の発生が少なく、様々なモードが組み込まれており、照射する組織によって設定をできることにより、痛みや熱による刺激が最小限に抑えられます。
歯科で使用される4種類のレーザーの中で唯一歯や骨などの硬組織にも使用でき、歯周ポケットの内側の歯石も除去できます。
さらに、殺菌作用も期待できるため、歯周ポケット内の細菌や炎症組織の除去に適しています。
また、インプラント周囲炎の治療にも使用できるレーザーです。
インプラント本体を傷つけることなく、歯石や炎症性肉芽組織を除去できます。
当院では、アドベールSHを導入しています。
従来治療との違い(音・痛み・侵襲性)
従来の歯周病治療では、手動のスケーラーや超音波器具を用いて歯石や汚染組織を除去することが一般的です。
| 比較項目 | 従来の治療 | エルビウムヤグレーザー |
| 音 | 大きく不快な音 | 音が小さく静か |
| 痛み | 強く感じることがある | 熱がこもりにくく刺激が少ない |
| 出血 | 起こりやすい | 少ない場合が多い |
| 治療後の腫れ | 場合によって発生 | 抑えられる傾向 |
上記の表のように、従来の治療と比べてEr:YAGレーザーでは不快感やストレスを少なく治療が可能です。
エルビウムヤグレーザーによる歯周病治療の具体的な流れ
通院回数・治療期間の目安
治療内容や歯周病の進行具合によって異なりますが、軽度の歯周病の場合には以下のようなスケジュールが想定されます。
- 通院回数: 5〜10回(検査・クリーニングを含む)
- 治療期間: 約3~6か月(状態の安定まで)
1回あたりの施術時間は45分~60分程度が目安となり、治療の負担も比較的少なく済む点が特徴です。
治療のメリットと限界
【メリット】
- 音や振動、熱による刺激が少ない
- 殺菌作用があり、炎症を抑えることが期待できる
- 外科的処置を伴わない場合もあり、治癒が早い傾向
【限界】
- 重度の歯周病(歯槽骨の大きな欠損など)には適さない場合もある
- 一定以上の深いポケットには外科処置が必要
- 全身疾患のある方や妊娠中の方は制限がある場合あり
リスクと副作用について
エルビウムヤグレーザー治療は比較的安全性の高い方法とされていますが、以下のような副作用の可能性があります。
- 一時的な知覚過敏(処置直後にしみる感覚)
- 治療部位の軽い出血・腫れ
- レーザーのエネルギー設定が不適切な場合のやけどリスク(経験豊富な医師による操作が必須)
当院では、安全性を確認しながら治療を行っております。
エルビウムヤグレーザーの治療症例
Er-YAGレーザーで縁下歯石を除去した症例
実際にEr-YAGレーザーを使用して歯周病治療を行ったM様の症例です。

歯に付着している黒い物が歯肉縁下歯石です。
縁下歯石は歯茎の下に付着する歯石のことで、血液を含んでいるため黒っぽく見えます。
縁下歯石は細菌を多く含み、歯周病の原因となります。
進行すると重度歯周病となり、歯槽骨が溶け、歯が抜け落ちることもあります。

今回は歯茎を開き、Er-YAGレーザーを使用して縁下歯石を除去しました。
Er-YAGレーザーは歯を傷つけず、歯石の除去をすることが可能です。
また、Er-YAGレーザーは殺菌作用もあるため、歯周病菌が分泌する毒素を減らすことで、炎症を収まる効果も期待できます。
術前術後


| 治療内容 | 外科処置を伴う歯周病治療 |
| 費用 | 歯周組織再生療法(1歯) 165,000円(税込) ※自由診療になります |
| 治療期間 | 治療期間:約3ヶ月(歯ブラシ指導、歯周病治療を含みます) 10 ヵ月~1年後に再評価 来院回数:10回(歯周病の進行度により大きく異なります) |
| リスク 副作用等 | 術後疼痛、一時的に歯がしみる可能性あり 根尖病変がある場合は先に根管治療が必要な場合もあります |
Er-YAGレーザーを使用したインプラント周囲炎の症例
続いて、インプラント周囲炎の治療を行ったM様の症例です。
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※音が流れます

インプラント体に歯石が付着しています。
インプラント周囲炎の原因となるため、Er-YAGレーザーで除去していきます。

手前側のインプラント体が綺麗になっているのが分かります。
このように、Er-YAGレーザーを使用すると、歯石の除去がしづらいデコボコとしたインプラントでも、インプラント本体は傷つけずに歯石を除去することができます。
術前術後
レントゲン上でも、インプラント周囲炎により溶けていた骨が術後は改善しているのが確認できます。

| 治療内容 | 外科処置を伴うインプラント周囲炎治療 |
| 費用 | 歯周組織再生療法(1歯) 165,000円(税込) ※自由診療になります |
| 治療期間 | 治療期間:約3ヶ月(歯ブラシ指導、歯周病治療を含みます) 10 ヵ月~1年後に再評価 来院回数:10回(歯周病の進行度により大きく異なります) |
| リスク 副作用等 | 術後疼痛、一時的に歯がしみる可能性あり 根尖病変がある場合は先に根管治療が必要な場合もあります |
FAQ
よくある質問
Q1. エルビウムヤグレーザー治療は痛いですか?
A1. 個人差はありますが、エルビウムヤグレーザーは熱の発生が少ないため、従来の器具と比べて痛みを感じにくいとされています。浸潤麻酔を行えば痛みなく、治療を受けられます。
Q2. 保険は使えますか?
A2. 一定の条件を満たせば健康保険が適用される場合があります。ただし、症状や治療内容によっては自費診療になることもあるため、事前の確認をおすすめします。
Q3. どれくらいの通院が必要ですか?
A3. 重症度によって期間がかなり異なりますが、通常は5〜10回程度の通院で治療を行うケースが多いです。初診から再評価まで含めて、3〜6か月の治療期間を目安としてください。
Q4. 治療後の副作用や注意点はありますか?
A4. 一時的に知覚過敏や軽い腫れ、出血を感じることがあります。多くは数日で落ち着きますが、異常が続く場合は再診をご案内しています。
Q5. 治療後すぐに食事や歯磨きはできますか?
A5. 基本的には可能ですが、治療当日は刺激の少ない食事や、優しい歯磨きを心がけてください。詳しくは医師から個別にご案内いたします。
外科手術を行った場合は1~2週間程度歯磨きは避けていただきます。
Q6. 高齢でもレーザー治療を受けられますか?
A6. はい、高齢の方でも問題なく受けられます。ただし、全身疾患や服薬状況によっては調整が必要な場合があります。
Q7. 妊娠中でも治療は可能ですか?
A7. 基本的には応急処置にとどめることが多く、妊娠初期・後期は原則として治療を控えることが推奨されます。歯科医師に妊娠中であることを必ずお伝えください。
Q8. 子どもにもレーザー治療は使えますか?
A8. 小児歯科領域でも一部応用されていますが、治療対象や方法は大人とは異なります。症状に応じて最適な方法をご提案しますので、ご相談ください。
Q9. すべての歯周病にレーザーは有効ですか?
A9. 軽度〜中等度の歯周病に対しては有効なケースが多いですが、重度の場合は外科的処置や他の治療法との併用が必要になることもあります。
Q10. レーザー治療で歯周病は完治しますか?
A10. 歯周病は慢性疾患であり、治療後も継続的なケアが必要です。レーザー治療は進行を抑える有効な手段ですが、完治というより「管理する」ことが重要です。
まとめ
この記事では、歯周病による歯ぐきの下がりや口臭の悩みに対して、「エルビウムヤグレーザー治療」という新しい選択肢をご紹介しました。以下に要点をまとめます。
この記事のポイント
- 歯周病が進行すると歯ぐきが下がり、口臭や歯のぐらつきの原因に
- エルビウムヤグレーザーは音や痛みの刺激が少なく、治療の負担を軽減
- 保険適用可能なケースもあるが、自費の場合は高額になる場合も
- 通院回数は5~10回程度が目安
- 一時的な副作用(知覚過敏・腫れ)もあるが、多くは軽度
- 重度歯周病には別の治療法を併用する必要がある場合も
完治ではなく「管理」が歯周病治療の基本方針





